認知療法は患者の誤ったものの見方を改めることによってこころの病気を治療する精神療法のことです。

たとえばうつ病というこころの病気では、患者は外界からの刺激をつい悲観的あるいは消極的に受け止めてしまい、こころの中に不安やストレスが過度に湧き上がって、抑うつ状態を引き起こしてしまいます。たとえば街で人がこちらをちらりと見た場合、相手が自分に好意を抱いて振り向いたのだと思えば気持ちが明るくなりますし、相手が自分に嫌な感じを抱いて振り向いたと思えば、反対に気持ちは憂うつになります。

アメリカの精神学者ベックは人間の感情を精神病の原因説とするそれまでの考え方に対し、ものごとに対する誤った見方(認知)がこころの病気を引き起こすのだという画期的な学説を提唱しました。そして、こうした考え方から、ものごとに対する患者の認知の仕方を改めることによって、こころの病気を引き起こす不安やストレスを減少させようというのが認知療法という治療法です。

ちなみに、別の項でも述べる患者の行動パターンを修正することによって不安やストレスの軽減を計る行動療法にこの認知療法を組み合わせた療法を認知行動療法と呼び、近年では多くのこころの病の治療に使われています。


認知療法では、不安やストレスを生じさせ、こころの病気を引き起こす原因となっている患者の誤ったものの見方(認知)を修正していきます。

ここでは、とくに不安、悲しみ、怒りとかいった感情を感じた時に患者がどのようなものの見方をしているかが重要となります。こころに病気を持つ患者はこうしたマイナスの感情を感じた時についものごとを悲観的に考える傾向があり、たとえば一人の人に嫌われた場合でも、みんなが自分を嫌っていると思い込んでしまいます。また、一回なにかに失敗すると、自分はなにをやっても駄目だと思い込んでしまいますが、こうした考え方は一回きりの不十分かつ断片的な証拠から悲観的かつ極端な結論を導き出しており、明らかに誤ったものの見方から来ていると言うことができます。認知療法ではこうした患者の誤ったものの見方(認知)の修正を行っていくことで、精神疾患の治療を計ります。

まず認知療法に先立って、治療者は患者との面接や行動記録から患者の誤ったものの見方を発見します。また、患者の治療への意欲が大切なため、改善する目標を前もって設定し、患者の治療への動機付けをおこないます。そして、本番の治療では治療者が患者との応答によって誤ったものの見方の修正を少しずつ行っていきます。とくに重要なのは患者の日常生活への応用で、毎日の生活の中でその日、その日の目標を設定し、修正したものの見方を一つずつ現実の中で応用、実施する訓練を行っていきます。


認知療法では、とくに不安、悲しみ、怒りなどといったマイナスの感情を感じた時の患者の誤ったものの見方(認知)を修正することで、患者は外界からの刺激に対して悲観的な受け止め方をしないようになります。そして、こころの病気を引き起こす原因となっている不安やストレスを減少させることができ、これらを原因とする社会恐怖症、外傷後ストレス障害、強迫性障害、恐慌性障害などといった神経症や、過食症、アルコール依存症などの治療に有効となります。

また、認知療法は上記のような効果とともに、患者により建設的なものの考え方を植え付けることで、患者の社会生活の充実にも効果を発揮することができます。