特集第5回 燃え尽き症候群

感情的エネルギーが完全に消耗

燃え尽き症候群の症状としては、無気力、無力感、疲労、無関心などを挙げることができます。

学術的にこうした燃え尽き症候群の重傷度を判定する基準として「MBI」(Maslach Burnout Inventory)と呼ばれる基準があります。MBIでは燃え尽き症候群を3つの症状から定義しています。

その第一の症状が「感情的エネルギーの消耗感」です。感情的エネルギーの消耗感というのは、仕事を通じて感情的エネルギーを放出し尽くしてしまった結果、エネルギーが枯渇しきった状態で、燃え尽き症候群の主症状と考えられています。

対人サービスなどの職種では、サービスを受ける相手の立場を思いやる感情的エネルギーが必要となります。ところが、毎日サービス相手に必死に感情をそそぎこんで仕事をするうちに、サービス提供側の感情的エネルギーが次第に消耗してしまい、ついにはエネルギーがなくなって、燃え尽き状態に陥ってしまうのです。

第二の症状が「脱人格化」です。脱人格化とはサービスを受ける相手の人格に配慮しないパターン化された対応を差す言葉です。脱人格化の症状は感情的エネルギーの消耗の結果として起こります。

感情的エネルギーが消耗し切ってしまった人は、仕事をしようと思ってももはや感情のエネルギーを使うことができません。このため、サービス相手との感情的やり取りを避けるため、相手との距離をおき、無感情でパターン化された仕事をするようになるのです。サービス相手を個人名で呼ばなくなったり、会話も紋切り型の受け答えしかできなくなってしまい、人との接触を避けようとして事務的な仕事に逃げ込もうとします。

第三が「個人としての達成感の低下」です。燃え尽き症候群になると、仕事の成果が急激に落ち込み、達成感が急速に低下します。これによって自信を喪失して、仕事への意欲がさらに失われてしまうのです。

MBIでは、この三つの症状の重症度によって燃え尽き症候群の重症度を判定しています。

突然人格が変わったように怒り出す

燃え尽き症候群の症状はどのような過程を辿って進行していくのでしょうか。

燃え尽き症候群に陥った人にまず最初に起こるのが、態度の変化です。燃え尽き症候群のなり始めは、それまで精神的に安定して寛大だった人が急に感情的に不安定になってイライラし始め、怒りっぽくなります。周囲の人たちに批判的になり、細かいことにこだわって相手に敵意や不満が向けられます。周囲に不信を持って疑い深くなり、黙り込んで引きこもってしまいます。自分自身に無力感を覚え、自信が持てなくなって自己否定しがちになり、仕事の成果も実感できなくなってゆきます。

こうして燃え尽き症候群の患者は、突然それまでの意欲に溢れて仕事に没頭していた人とはまるで別の人格になってゆくのです。

燃え尽き症候群で次に起こるのが「脱人格化」による逃避行動です。バーンアウトで感情的エネルギーが枯渇してしまうと、感情を使って周囲を思いやる余裕がなくなり、人間関係が苦痛になって人とのかかわりを避けるようになります。

そして症状が進むと、なにごとにもしらけた感じになって、周囲の人たちに対して冷淡でよそよそしい態度をとるようになります。事務的に接したり、高圧的に接したり、事務作業で忙しそうな振りをしたりして周囲との接触を拒みはじめます。そして、仕事を休みがちになり、転職を希望するようになってしまいます。

燃え尽き症候群の第三の段階はストレス性の身体症状です。燃え尽き症候群が進行すると、さまざまな身体症状が出現してきます。頭痛、肩こり、食欲不振、潰瘍などのストレス性胃腸障害、体重減少などの身体症状が見られるようになるのです。いつも体調がすぐれず、疲労が抜けずに、全身の倦怠感を覚え、朝起きられない、職場に行きたくないなどと思うようになります。

燃え尽き症候群の第三段階では、精神的にもさらに落ち着きがなくなり、うつや睡眠障害などの精神症状が出現。不安から逃れようとアルコールや薬物乱用などに陥ることもあります。

燃え尽き症候群で次に起こるのが、燃え尽きの否認です。

患者は燃え尽きの症状を感じると、なんとか燃え付きの事実を認めまいとして、自分の力をアピールするために無理な仕事をするようになります。徹夜をしたり、異常にばりばり働き始めることで、燃え尽きを否定しようとするのです。

燃え尽き症候群の最後の段階は崩壊です。患者はうつや不安が強まると同時に、怒りや攻撃性が強まり、正常な人間関係が保てなくなります。激しい消耗感や疲労を覚えて、意欲が減退。仕事にも私生活にも無気力になって社会生活にも支障を生じます。

そして、果ては人生に悲観的になって家庭生活が崩壊。離婚したり、最悪の場合は自殺や過労死に至ることもあります。